2007年10月30日火曜日

レッドソックス優勝

スティーヴンキングがレッドソックスファンなのは有名ですが、その繋がりでキングと『刑務所のリタ・ヘイワース』の話を、向井万起男氏(慶大医学部准教授)が朝日新聞の夕刊コラム「大リーグが大好き!」(10/29日付)に書いていました。

引用
 今回はどうでもいい話。毎回どうでもいい話だ?でも今回は、もっとどうでもいい話。

 米国北東部の6州をニューイングランドと呼ぶ。中心都市はマサチューセッツ州のボストン。で、ニューイングランドにはボストン・レッドソックスのファンが多い。しかも、とんでもなく熱狂的なファン。その代表格の1人として有名なのが、ベストセラー作家のスティーヴン・キング。作品にも、ニューイングランドを舞台にレッドソックスのファンが登場するというのがけっこうある。例を一つ。

 『刑務所のリタ・ヘイワース』(新潮文庫『ゴールデンボーイ』所収、訳・浅倉久志)。無実の罪でニューイングランドの刑務所に長年入れられていた男の脱獄を描いた傑作小説だ。……1967年にレッドソックスがワールドシリーズに進出して刑務所中が盛り上がるという描写が出てくる。

 この小説を映画化したのが『ショーシャンクの空に』 (1994年)。この映画を観てメチャクチャ感動したという人が実に多い。では、そういう人に質問。この映画には原作小説と違ってワールドシリーズのことが出てこないの憶えてます? ホントに出てこないのだ。では、出てこない理由は何か?

 小説では、主人公は25年以上も服役して1975年に脱獄する。その間、刑務所の所長は数代にわたっている。ところが映画では、極悪非道の一人の所長のまま代わらない。その方がわかりやすいしインパクトがあるから。でも、長年にわたって所長が代わらないのは変なので、主人公の服役期間を短くして1966年に脱獄させている(それでもチョット無理があるけど)。で、映画には1967年のワールドシリーズは出てこないわけ。他の年のワールドシリーズにしちゃうわけにもいかない。レッドソックスがワールドシリーズに進出してないとマズイし、1967年より前にレッドソックスがワールドシリーズに進出した年となると1946年にまで遡っちゃうから。

 これが私の考えた理由だが、ホントは違う理由かもしれない。でも、とにかくワールドシリーズ抜きの映画なのにメチャクチャ感動している人が多いことだけはたしかなのだ。……ニューイングランドの皆さん、今年のワールドシリーズでレッドソックスが戦ってるからって、そんなに熱くなる必要はないですよ。ワールドシリーズ抜きでも人は感動できるみたいなんだから。

引用終わり。
 全文引用してしまいました。朝日新聞のサイトにこのコラムが載ってないから仕方ないということで。
このコラムが掲載されたのが、10月29日の夕刊で、この夕刊が届いた数時間前にレッドソックスは優勝してたので、レッドソックスネーションRed Sox Nationの人たちは、相当熱くなってたでしょう。

 小説「刑務所のリタ・ヘイワース」での1967年のワールドシリーズは、けっこう重要な時期だと思う。このワールドシリーズの4年前に、ショーシャンクにきた囚人の1人が、アンディーが濡れ衣を着せられた殺人事件の真犯人を知っているという情報があったのに、所長のノートンが、図書室も、監房を一人だけでいられる特権も取り上げるとアンディーを脅して、そのチャンスを握りつぶした。その後アンディーはいくらか内向的になり、無口になった。
 そして、1967年のレッドソックスのワールドシリーズ出場で刑務所中が盛り上がり、7戦目にレッドソックスが負けたあと、囚人達が憂鬱におそわれた後も、アンディーは、刑務所のワールドシリーズ中のお祭り気分に感染したかのように、ようやく以前の感じを取り戻した、と小説にある。レッド(調達屋で小説の語り手の)に、自分が架空の名義で大金を持っていることを明かし、自分が刑務所を出たら、メキシコの町シワタネホにホテルを建てるつもりだと打ち明け、レッドが刑務所を出たら、ホテルを手伝ってほしい、と、運動場で話をしたのが、このワールドシリーズが終わった2週間後のことです。レッドは、アンディーが脱獄した後、このワールドシリーズの頃にアンディーが、監房の厚さ3メートルの壁に小さく穴を貫通させることに成功したと推測している。
 レッドは、アンディーは野球ファンじゃなかったと書いている。ワールドシリーズ後にアンディーの気分が戻ってきたのも、ワールドシリーズにレッドソックスが出たからではなくて、この頃に壁に小さく穴があいたことで、脱獄の可能性を真剣に考えるようになったから。

 だから、小説では、1967年のワールドシリーズは、アンディーが落ち込んだ気分から回復するのを書くときにいい効果になっていて、8年後の脱獄までつながる重要な転換点。

 映画では、このワールドシリーズのこと出てこなかったんですね。実は、『ショーシャンクの空に』は一度しか観ていないので気付きませんでした。向井さんの言うように時間軸の問題で出てこなっかたんでしょう。あとは、小説では、4年間落ち込みが続いた、とあるだけで、そのあとすぐワールドシリーズの話になり、アンディーは元に戻ります。小説なら想像力で補えても、映画でこの4年間を表現してワールドシリーズの話を意味あるものとして登場させるのは難しいでしょうし、それもあって省いたんではないでしょうか?

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The Official Site of The Boston Red Sox:Fan Forum:Red Sox Nation

映画『ショーシャンクの空に』の原作小説「刑務所のリタ・ヘイワース」は、新潮文庫『ゴールデンボーイ』所収。

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